行定勲監督が韓国ドラマ『完璧な家族』に参戦! 演出して気付いた韓国ドラマのヒットの法則とは?
錚々たる韓国映画の監督陣が、ドラマで演出するようになり、今や映画とドラマの垣根はあいまいに。そんな過渡期ともいえる韓国エンタテインメント業界に行定勲監督が参入。韓国では老舗の地上波放送局KBSで放送され、日本ではLeminoで独占配信中の韓国ドラマ『完璧な家族』の演出を担った。『韓国テレビドラマコレクション2025』(キネマ旬報社)に掲載するインタビューに収まりきらなかった、驚きのエピソードをいち早くお届けします。
韓国の地上派放送局KBSで演出することになった経緯
― 行定監督は、映画や映画祭を通じて韓国との関係性を築き上げてきました。今回の連続ドラマのオファーはやはり、その関係性の延長線上にあるものでしょうか?
韓国側が僕を推薦してくれたみたいで、僕の名前を企画書に載せてキャストに回してみたら反応が良かったらしく。そうやって集まってくれたキャストやスタッフは、僕のことを知ってくれていましたね。助監督、撮影技師、照明技師ら映画もドラマもやりたいスタッフたちは、僕の作品はもちろん、釜山国際映画祭で見た日本映画の話をしていて、ある種のリスペクトを感じさせてくれました。ただ、韓国では、映画の人たちは僕の事をよく知ってくれているけれど、テレビ界の人には全く知られていない事がわかりました(笑)」
ソニの家は撮影所に建てたもの。天気に左右されず撮影時間を短縮化
―予算は潤沢でしたか?
「潤沢です。日本では到底無理なことをやらせてくれました。例えば主人公のソニが両親と暮らす2階建ての一軒家と庭は、坡州(パジュ)にあるCJ ENM スタジオセンターの巨大な倉庫に作った総建築です。僕はこのドラマを“家族とは何なのか?”という物語にしたかったので、ソニの家は登場人物のひとつですし、家をどう表現するかがとても重要だったんです。オープンセットも検討しましたが、どうしても天気に左右されるので、合成できる環境をスタジオの中に作った方がいいという技術的なアイデアを採用して、背景をグリーンバックで囲みました。日本ではあまり合成をやりたがらないんですけど、今回はこの合成が逆に新鮮で良かった。家のシーンをグリーンバックで撮って、ロケで撮ってきた庭の映像にセットの家をはめ込んでいるんです。合成の映像が持ついい意味で不自然な、妙な空気感が結構気に入っています」
―日本ではこのやり方はしないものですか?
「予算がかかるから、日本では『ロケにしよう』となっちゃうんですよね。ロケはさっきも言ったように天気に左右されるから、余計に時間がかかる分、撮影で粘れないということが起きてしまう。韓国はセットにお金を大きく使う。今回もおかげ様で、100日で撮る予定だったものを70日で撮れました。廊下から台所へ、そこから2階まで行くショットをワンカットで撮れるのでだいぶ時間を節約できる。人物を大きく動かせるというメリットもあります。このドラマにはそういうショットがいくつもあります」
―流れるようなカメラワークに合わせて、クラシック音楽をチョイスしたのでしょうか?
「それは韓国の制作会社の意向です。僕はもっと現代的な、打ち込みのアンビエント・ミュージックにしたかったんですけど、韓国の地上波ドラマはもっとドラマチックな音楽で、芝居よりも先に盛り上げる。僕が『このあたりから』と指定している箇所よりもだいぶ前から流し始めちゃうんですよ。先に音楽が鳴ってしまうと芝居の入口が台無しになるからやめてほしいと言っても、KBSさんの判断で最終的にそうなっていました。それが韓国ドラマの歴史と文化ですし、韓国ドラマの人気の理由のひとつですよね。僕が今回韓国に来たのは“韓国ドラマ”をつくるため。そこに入り込んだ僕が、作品づくりの邪魔をしてしまったら、本末転倒になってしまうからね」
第一話の冒頭のネタバレには、理由がある!
―最終的なジャッジはKBSがして、それを受け入れるというやり方でしたか?
「そうですね。全話の編集を終えて、納品して日本に帰ってきてから、KBSさんが何箇所か内容を作り変えました。もちろん基本ラインは僕が演出したものですし、追加撮影もしていません。一番わかりやすいのは、第1話の冒頭です。主人公ソニの友人であるギョンホ(キム・ヨンデ)がいきなり死ぬシーンは、僕の意向ではありません」
―え!? 監督に断りもなく?
「KBSさんからあらかじめ『キム・ヨンデのシーンから始めたい』と言われていたら、僕はあんな風には撮らないかな。僕の編集は、最初に血まみれで歩くソニが家に帰ってくるところ以降です。だから、最初の5分を切ったものが、音楽の入り方などは違いますが、僕のオリジナルバージョンに近いです。冒頭のそのシーンはネットで「謎のネタバレ」と言われていましたが、僕に対して評論的な視点で意見を言う友達も、第1話を見終わった後に「あの始まり方は効果的じゃないよね」と言ってきて。それが2話を見終えて『え? ギョンホを殺したのは誰だ? という話だったんじゃないの? 12 話あるのにどうなるの?』となり。そこから徐々に想像と全然違う家族の話になっていくので、彼は『逆にあの冒頭はあれでもよかった』と言っていました。僕が『冒頭5分はやっぱりない方がいいと思ってる』と言ったら、『第1話の冒頭なんてどうせみんな忘れるよ』と言われました。確かに僕も、ちょうど『涙の女王』を8話ぐらいまで見ていたんですけど、1話をすっかり忘れていました。周りで見ている人に聞いても、みんなすぐに答えられない。なんてこともあるよね(笑)」
―日本より話数が多い作品もありますし、展開が早いから最初の方を忘れてしまいがちですよね(笑)。
「でもなんとなく身体的に『面白かったね』という印象が残る。それが韓国ドラマのパワーだと思います」
韓国とのコラボレーションは今後も続く?
―行定監督の韓国とのコラボレーションは今後も続くのでしょうか。
「韓国と日本の合作を企画中です。昭和の名作小説を原作に、日本でつくろうとしていたんですけど、今回韓国で撮影中に、登場人物を韓国人と日本人にして、舞台を現代の韓国と日本にした方が、原作小説が言わんとしている本質が明確になるし、広がりが出ると思ったんです。韓国のKBSで流れるドラマを撮ったことのある監督が、また韓国で撮ることになれば、今回とはまたちょっと違う角度で韓国の人たちと向き合えるかなという期待もあります。新たな出会いを重ねながら、韓国の俳優やスタッフたちと、また一緒に作品をつくりたいですね」
文=須永貴子 制作=キネマ旬報社
【あらすじ】
誰が見ても幸せで完璧に見えた家族だったが、娘のソニが巻き込まれた殺人事件をきっかけに、家族の秘密が次々と明らかになっていく。事件に関わるそれぞれの証言が食い違い、誰も信じられない。真実の相対性に迫る、緊張感たっぷりのミステリーであり、事件に巻き込まれた家族の物語が、今、幕を開ける!
【作品データ】
完璧な家族(완벽한 가족)
KBS/全12話
演出・脚色:行定勲
脚本:チェ・ソンゴル
出演:キム・ビョンチョル、ユン・セア、キム・ヨンデ、パク・ジュヒョン、ユン・サンヒョン、チェ・イェビン、イ・シウ、キム・ドヒョン、キム・チャンワン、キム・ミョンス
© Victory Contents Co., Ltd.
Leminoにて全話独占配信中
『韓国テレビドラマコレクション2025』
2002年よりキネマ旬報社が毎年発行してきた‟元祖”韓国テレビドラマムック、韓国テレビドラマコレクション。2025年1月15日発売する、2025年版の表紙は、キム・ヨンデ。若手俳優のなかでも出色の存在で、『損するのは嫌だから』『昼に昇る月』『完璧な家族』と、出演作が軒並み話題に。2025年も注目ドラマの放送が控えるネクストスターが、本誌だけに今の気持ちを語ってくれました。巻頭特集は、『2024韓国ドラマ徹底解剖』。旬の俳優や、精鋭執筆陣による2024年の推しドラマをピックアップ。韓国の地上波KBSドラマを初めて演出した、行定勲監督のインタビューを掲載。制作サイドから韓国ドラマの魅力に迫ります。OST、オーディオブック、ドラマの原作本と、韓国ドラマを多角的に楽しむ方法をご案内。さらに、2024年の韓国映画事情からおすすめ映画レビューまで。2024年に話題になった韓国のエンタテインメントを、各専門のエキスパートと共にひもときます。
全国書店・ECストアにて2025年1月15日発売
2,530円(税込)※電子ブック版は2,500円(税込)
A5版/カバー・並製/608頁/キネマ旬報社刊
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⇒KINEJUN ONLINE
記事提供元:キネマ旬報WEB
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。