小津安二郎の初期作品を、現代を舞台にリメイクしたオムニバスドラマ『連続ドラマW OZU~小津安二郎が描いた物語~』
日本映画界が世界に誇る巨匠・小津安二郎監督の生誕120年を記念して作られた、小津監督の初期のサイレント映画6作品を、現代に時代を置き換えてリメイクしたオムニバスドラマ『連続ドラマW OZU~小津安二郎が描いた物語~』のDVD-BOXが12月12日に発売された(レンタルは12月11日リリース)。気鋭の映画監督6人が、田中圭、柄本佑、前田敦子、成田凌、石橋静河、中川大志を主演に、約90年前に作られた小津監督の世界を、どのように現代に蘇らせたのか。映画ファンのみならず、多くの人に観てもらいたい注目の作品集になっている。
田中圭の好演が光る『出来ごころ』
今回リメイクされる6作品は、小津安二郎が27歳から29歳の時に監督したサイレント映画が原点。第1話の『出来ごころ』は、キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位にも輝いた1933年の作品で、小津監督のフィルモグラフィの中では、坂本武演じる人情味あふれる中年男を主人公にした〝喜八もの“と呼ばれる作品の第1弾である。物語は息子の富夫と二人で暮らす工員の喜八が、食堂で働く春江に惚れるが、春江は喜八の友人・次郎に想いを寄せていて、それを知った喜八が二人のために一肌脱ごうとするもの。リメイク版では喜八を田中圭が、次郎を渡邊圭祐が演じていて、ヒロインの春江は白石聖。喜八と富夫の親子の触れ合いをメインに、脚本も担当した城定秀夫監督が、うまく原点の味わいを残した人情喜劇に仕立てている。何と言っても喜八に扮した田中圭の演技が印象的で、ぐうたらだが息子や友人のためには一途になる、気のいい愛すべきダメ男を見事に表現した。ラストの描き方はオリジナル版と違うが、6本の中で最も小津の雰囲気に近い作品である。
現代の親子関係に寄せた、「生れてはみたけれど」
第2話『生れてはみたけれど』は、1932年に発表された「大人の見る繪本 生れてはみたけれど」が原点。小津監督が初のキネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位になった作品で、上司に頭が上がらない父親に幻滅し、やがて大人の世界に理解を示す姿を子どもの視点から描いた、風刺が効いた喜劇である。𠮷田康弘監督・脚本によるリメイク版では子供たちの父親を柄本佑が、その妻を国仲涼子が演じ、柄本の上司を染谷将太が演じている。オリジナルの時代には父親が家庭の中で絶対的な権力者で、その父が会社ではこき使われる立場になっているというギャップが際立っていたが、今回のリメイク版では、子どもたちがサラリーマン社会の上下関係を、もっと冷静に見つめて父親に理解を示すところが現代風の味付けになっている。
前田敦子と高良健吾共演のサスペンス『非常線の女』
松本優作監督、高田亮脚本による第3話『非常線の女』は、1933年の同名映画が原点。元ボクサーのギャングが、彼に憧れる弟分の姉に惚れたことから、弟分を立ち直らせようとして、彼を救おうとしたことから危機に陥っていく。リメイク版では主人公をギャングではなく、美人局で稼いでいる“半グレ”グループのリーダーに設定を変え、これを高良健吾が演じ、エロティックな彼の情婦を前田敦子が体現した。二人はまっとうな生活に憧れながらも犯罪に手を染める、悪党になりきれない男女を描いていて、彼らのもがき苦しむ姿が強烈な印象を残すサスペンスになっている。前田敦子に言い寄る中年男の渡辺いっけいをはじめ、脇のキャストも充実した1本だ。
成田凌の快演が見もの『淑女と髯』
前田弘二監督、高田亮脚本の第4話『淑女と髯』は、1931年に小津監督が作ったナンセンス・コメディのリメイク。立派なひげがトレードマークの大学生が、そのひげが原因で就職試験に落ち続け、知り合いの女性からひげを剃ったらいいのにと忠告されて、剃ってみたら就職が決まる。見た目も好青年になった彼は、純情なオフィス・レディと金持ちの令嬢の間で恋に揺れていくというもの。リメイク版ではひげの主人公を成田凌が演じ、ひげ面の彼に惹かれるちょっと変わった性格のヒロインを堀田真由が演じている。オリジナル版では二枚目スターの代表格・岡田時彦が羽織はかま姿でひげぼうぼうのバンカラ大学生として登場し、途中でひげを剃ったら都会的な美青年に変貌するのがポイントだったが、今回の成田凌もひげのあるなしで変わるインパクトな風貌に注目。クライマックス、成田とヒロインの仲を取り持つ、堀田の母親を演じた吉田羊も好演している。
姉弟の愛を映した『東京の女』
工藤梨穂監督、狗飼恭子脚本の第5話『東京の女』の原点は、1933年の小津の監督作。大学生の弟と二人で暮らすヒロインは、昼にオフィス・レディとして働いているが、夜にはバーに勤めて体を売っていた。すべては弟を一人前の社会人にするためだったが、弟はその事実を知らない。やがて恋人から姉の夜の商売を知らされた弟は、絶望を抱えて家を出る。リメイク版では姉を石橋静河が、弟を金子大地が演じた。オリジナル版では姉弟が暮らすアパートが、狭いながらもモダンな内装で表現されていたのに対し、リメイク版で二人が暮らすのは、まさに小津の世界といった感じの古い日本的な一軒家。亡くなった両親が遺したこの家でのどこか懐かしい生活ぶりと、夜の商売をしているヒロインの現代的な乾いた雰囲気が、表と裏の世界ように映し出されている。
男同士の友情を描く、『青春の夢いまいづこ』
近藤啓介監督・脚本の第6話『青春の夢いまいづこ』は、1932年の小津作品のリメイク。大学時代に親友だった二人が社会に出て、ひとりは社長になり、もう一人は彼の会社の社員になる。やがて大学時代にアイドルだった女性を巡って、彼らの間で騒動が起こる。リメイク版では、亡くなった父親の跡を継いでホテル業の経営者になるのが中川大志、その友人を渡辺大知が演じた。二人の大学時代からの友人として成海璃子も登場するが、ここでは彼らの恋の相手ではなく、二人の仲を取り持つアドバイザー的な役割。原点ではドラ息子の社長と、彼に対して卑屈になる社員の友人という図式が際立っていたが、今回のリメイクでは中川大志を二代目社長として苦悩と孤独を抱えた男に設定し、渡辺との友情を強調することで清々しさの残る青春物語にしている。大学時代からの二人の関係を繋ぐ、サッカーや飼っているカメの存在も小味が効いた好編だ。
出演者や監督の話が聞ける映像特典
今回のDVD-BOXには、WOWOWでの放送時のスポット映像集に加えて、第36回東京国際映画祭で特別上映された際に行われた、監督や出演者の舞台挨拶の模様を特典映像として収録。第1話『出来ごころ』の舞台挨拶には、城定秀夫監督と田中圭が登壇。田中圭の、監督が1シーン1カットでクライマックスを描こうとしたのに驚いたという話が面白い。また第3話『非常線の女』からは、松本優作監督と主演の前田敦子、高良健吾が登場。高良健吾は3年前からトレーニングしているボクシングが、やっと仕事に活かされたと言っている。そのボクシングシーンにも注目してほしい。
文=金澤誠 制作=キネマ旬報社
『連続ドラマW OZU~小津安二郎が描いた物語~』
●12月12日(木)DVD-BOX 発売(レンタルは12月11日リリース)
DVD-BOXの詳細情報はこちら
●DVD-BOX 価格:10,780円(税込)
【ディスク】<2枚組>
★映像特典★
・WOWOWでの放送時のスポット映像集
・第36回東京国際映画祭特別上映時の舞台挨拶
●2024年/日本/本編300分
第1話『出来ごころ』
脚本・監督:城定秀夫
出演:田中圭、渡邊圭祐、白石聖
第2話『生れてはみたけれど』
脚本・監督:𠮷田康弘
出演:柄本佑、国仲涼子、染谷将太
第3話『非常線の女』
脚本:高田亮 監督:松本優作
出演:前田敦子、高良健吾、渡辺いっけい
第4話『淑女と髯』
脚本:高田亮 監督:前田弘二
出演:成田凌、堀田真由、吉田羊
第5話『東京の女』
脚本:狗飼恭子 監督:工藤梨穂
出演:石橋静河、南沙良、金子大地
最終話『青春の夢いまいづこ』
脚本・監督:近藤啓介
出演:中川大志、渡辺大知、成海璃子
●発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
©2023 WOWOW/松竹
記事提供元:キネマ旬報WEB
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