河村勇輝は早くもチームの人気者に。ただ、NBAでの目標はまだ先にある
グリズリーズで開幕ロースター入りを果たし、NBAデビューを飾った河村。早くも存在感を放ち人気も上昇中だ
日本男子バスケットボール界が誇る司令塔・河村勇輝は、アメリカでのキャリアを順調にスタートさせた。
パリ五輪での活躍で名を売った23歳の河村は、9月にメンフィス・グリズリーズとトレーニングキャンプ参加を前提にした「エグジビット10契約」に合意。キャンプとオープン戦で力を見せると、10月19日(現地時間。以下同)にはGリーグ(マイナーリーグ)に所属しながらNBAのゲームに出られる「2ウェイ契約」を結んだ。
開幕ロースターにも残り、10月25日のヒューストン・ロケッツ戦で早くも初出場。田臥勇太、渡邊雄太、八村 塁に続き、日本人史上4人目のNBAプレーヤーが生まれた瞬間だった。
レイカーズの八村(左)とのツーショット。河村は別日のレイカーズ戦でフリースローを決め、NBA初得点を記録した
「NBAはずっと夢の舞台でしたし、まずはそのメンバーの一員になれたことが光栄です。自分の目標はコートに立って、チームの勝利に貢献できるような選手になること。
そう簡単にはいかないと思いますけど、一日一日、コーチングスタッフやチームメイトに認めてもらいながら成長して、いつかローテーションに入って、勝利に貢献できる選手になりたいです」
聡明な河村は慎重に言葉を残したが、無保証のエグジビット10契約から、短期間でNBAデビューまで駆け上がった快進撃は見事だった。
そのパスセンスはアメリカでも十分に通用し、コートに立てば随所にハイライトとなるキラーパスを通す。電光石火のスピードで相手ディフェンスを切り裂き、アウェーの観客をも驚かせる。
グリズリーズのテイラー・ジェンキンスHCが「ユウキはさまざまな方法でチームにスパークを与えてくれる」と称賛したのをはじめ、チーム内でもその力量は早い段階から認められていった印象がある。
現在のNBAで最も身長が低い河村(173㎝)が相手ディフェンダーをパスで手玉に取る光景には爽快感があり、メンフィスのファンの間でも背番号17は瞬く間に人気選手になった。
コミュニケーション能力にも秀でており、グリズリーズのスーパースター、ジャ・モラントに気に入られるなどチームになじんでいる。グリズリーズの試合の終盤、ファンが河村の登場を望んで「We want Yuki!(ユウキを出せ!)」とコールするのも恒例になりつつある。
今は勝敗がほぼ決した試合終盤での出場が多くなっているが、今後はGリーグでも経験を積みながら地位を高めていく
ただ、人気を得たとはいえ、河村が望むような形でチームに貢献できているとはいえないのも事実ではある。
11月17日までで9戦に出場したが、登場するのはすべて大差がついた終盤の時間帯のみ。同6日のロサンゼルス・レイカーズ戦でのフリースローでの初得点、同8日のワシントン・ウィザーズ戦での初のスリーポイントシュート成功は話題になったが、これらもすでにチームの勝利が決定的となった段階で決めたものだった。
開幕から14戦を終えた時点で8勝と好スタートを切ったグリズリーズにおいて〝不可欠の戦力〟として確立されたわけではない。デビューを飾ったばかりの選手を「人気先行」と呼ぶのは適切だとは思わないが、少なくとも河村自身の目標にはたどり着けていないだろう。
とはいえ、どんな時間帯だろうとファンから出場を望まれるのはスター性の証明でもある。プロ選手である以上、もちろん人気があるに越したことはない。何より河村が、早い段階で〝ファン・フェイバリット(人気者)〟になったことを喜びつつ、今の位置に甘んじているわけではないことが心強い。
「今できることをとにかく全力でやるのが僕にできること。評価は急にパッと上がるものではないと思っているので、積み重ねていきたいです。
僕の身長ではディフェンスでハンディになることもあるので、『そうはならない』ってところを証明しなければいけません。特にディフェンス面ではそれを意識してプレーするようにしています」
そう語る河村が今後やらなければいけないことは何か。まずは、NBAで最初の9戦でなかなか決まらなかったシュートの精度を上げること(フィールドゴールは11本中2本、スリーポイントは8本中1本の成功)。
同時に、自身も語っていたとおり、サイズ不足がチームにとってハンディにならないよう、ディフェンスでの貢献のすべを見つけることだろう。それらのためには、多くのプレー機会を得ることが最善に違いない。
河村は11月15日、メンフィス・ハッスルでGリーグに初出場。主力の働きが期待されるマイナーリーグで29分44秒プレーし、10アシストをマークして力を誇示した。グリズリーズはケガ人が多く、開幕当初はNBAでの出場が増えたが、今後は2ウェイ契約のシステムどおり、GリーグとNBAを行き来することになりそうだ。
「日によっては(Gリーグの)ハッスルで練習して、グリズリーズで練習して、その後に試合みたいな感じになると思います。試合も含めたら〝3部練〟みたいなことは普通にあります。
少しタフではあるんですけど、僕としてはとにかくアメリカのバスケを何がなんでも吸収したい時期なので、『すごくいいスケジュールだな』と思います」
ハードなスケジュールにも思えるが、厳しくも充実した日々の中で学べることも多いだろう。それは、同じくグリズリーズとの2ウェイ契約でNBAキャリアをスタートさせた渡邊が通った道でもある。
「本当にいい経験をさせてもらっているので、何がなんでも吸収して、ケガに気をつけて頑張りたいと思います」
そう笑う河村の行く手には、どんな未来が待っているのか。Gリーグでアメリカのプロバスケに慣れ、飛躍につなげた〝先輩〟の渡邊と同じく、河村も一歩ずつ階段を上っていけるのか。いずれこの1年目が、「成長のための重要な期間だった」と振り返る日が訪れることを期待したい。
取材・文/杉浦大介 写真/アフロ
記事提供元:週プレNEWS
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