1年で最も面白い『四季報 秋号』から達人たちが発掘した「ガチ伸び企業10選」
『四季報』伝説の編集長・山本隆行氏×四季報写経ウーマンの情報量メガ盛り対談!
日本の上場企業を網羅した『会社四季報』の内容を写し続ける女子大生と、"中の人"との対談が実現! 最新号から気になった企業をとことん語ってもらった!
――四季報写経ウーマンさんは大学に通いながら、毎朝4時に起きて、日本の全上場企業約4000社を網羅した雑誌『会社四季報』(東洋経済新報社)をひたすら書き写しているそうですね。山本さんはこの「四季報写経」をご存じでした?
山本 もちろん耳には入ってましたよ。四季報にそんな使い方があったとはなぁ......。
ウーマン ビジネスアドバイザーの山川隆義さんが書かれた『瞬考』(かんき出版)という本を読んで、四季報写経を知ったんです。
四季報という膨大な情報源をひたすら写して、自分の中に大量の数字やビジネスの事例をストックしていきます。ただ転記するだけでなく、数字の裏側を考えたり、会社の沿革を見たりしながら、疑問の解決を繰り返していく。
すると、会社同士を数字で比較したり、ビジネスの移り変わりを俯瞰することができるようになってきて、自分なりの新しい問いや仮説を生み出せるようになる......というのが、四季報写経の目的です。現在、私は2000社超の写経を終えています。
山本 具体的にはどんなことを書いているんですか?
ウーマン 会社名と4桁の証券コードに始まり、創業年と上場年、業種、時価総額といった会社のプロフィールを書いていきます。事業の種類や特色、取引先、海外売上比率を写してその会社がやっているビジネスのイメージをつかみ、その業績を売上高や利益を写して知っていきます。
経営の良しあしをPER(株価に対する利益の比率)とROE(自己資本に対する利益の比率)のふたつの指標で大まかにつかみ、あとは記者さんが取材を基にまとめた紹介記事を写して、1社分が完了です。
山本 私が四季報を読んでいて思うのが、上場会社の全部が全部、素晴らしい会社ばかりではないということ。業績は万年代わり映えせず、前向きに市場から資金を調達するわけでもなくて、なんのために上場してるのかわからない会社はけっこうあります。そういう会社って、写経してて楽しいですか?
『四季報』を30年以上編集し続けたレジェンド! 山本隆行氏
ウーマン むしろ惹かれますよ。事業を調べてピンとこない会社でも、10億円の売り上げがあるならそれは誰かがモノなりサービスなりを買っているわけで。わからないほど理解したくなります。
私は株式投資をほとんどしていないので、世の中にある会社や事業を理解したいという動機で写経をしています。なので、投資目線だと箸にも棒にもかからないような低空飛行の会社でも、学べることは多いですね。
山本 なるほどね。私は上場企業を完全に投資対象として見てますから、規模が小さい、成長性がない会社はじっくり読まない。上場企業は4000社近くあるので、時価総額100億円以上、売上高が最低でも毎年15%は伸びている会社に絞っても、見る会社は山ほどありますからね。
■社内SNSサービスが今、売れているワケ――同じ四季報を読んでいても、おふたりの目線がビジネス・投資と、まったく違うのは面白いですね。それぞれの目線で、面白いと思った企業を教えていただけますか?
山本 はい。その前に秋号のポイントからお話しします。
実は年4回出る四季報のうち、一番面白いのが秋号なんです。その理由は、日本で断トツに多い3月決算企業の第1四半期(4~6月期)の実績が見られるから。競馬で言えば、レースがスタートして第1コーナーを回ったところで馬券が買えるようなものです。このスタートダッシュは、秋号の「進捗率」欄を見ればわかります。
ウーマン 第1四半期なので1年を4分割して、25%あればそこそこという感じでしょうか。
山本 業務に季節性のある会社以外はそうですね。この進捗率で目についたのが、おもちゃ商社のハピネット。
扱う商品は玩具店向けのおもちゃからコンビニ向けのくじ商品、「ポケモンカード」などのトレーディングカード、カプセルトイなど多岐にわたります。同社の第1四半期の進捗率はなんと42%。なのに、業績予想を変えていないんです。
ウーマン そんなに絶好調なら、普通は上方修正をして株価を上げたいですよね?
山本 おっしゃるとおりで、その理由はおそらく親会社に気を使っているから。同社株式の約24%を保有しているバンダイナムコホールディングスが上方修正をしていなかったので、親を差し置いてはやれないというところでしょう。
ということは、むしろ今が狙い目。バンダイナムコも好調ですから、ハピネットもいずれ足並みをそろえて上方修正するはず。そうなれば株価はドカーンと上がるでしょう。
ウーマン 私はビジネス目線で、企業の社内SNSサービス「TUNAG」を開発・販売しているスタメンが面白いと思いました。
『四季報』の内容をExcelにひたすら転記する女子大生! 四季報写経ウーマン
山本 スタメン?......ああ、成長中のベンチャーで、時価総額がまだ70億円だから、私の網にはかかっていなかったですね。
ウーマン 写経したときに、「社内SNSなんて必要? なんでこれが18億円も売れてるの?」と思ったんです。それで調べていくと、飲食や物流系の企業でかなり使われていることがわかりました。
人手不足が続く中、アルバイトの採用ってすごくコストがかかるんですよね。で、社員同士のコミュニケーションが促進されるようなツールを入れると、スタッフ離職率が下がるみたいで。
人員の補充・教育コストに比べたら、社内SNSに毎月10万~20万払うのは割のいい投資なんですよね。最初はよくわからないものでも、思わぬ価値があるんだって知ることができるのが写経の面白さなんです。
■「カラオケの鉄人」が今や美容の会社へ!?山本 投資目線で言うと、大事なのは「変化の兆し」を見つけること。首都圏でカラオケチェーンと外食チェーンを運営している鉄人化ホールディングスが、ここにきて美容部門の売り上げを伸ばしています。ネイルやまつエクのサロン展開で、利益率が高く設備にあまりお金がかからないので、積極拡大にかじを切っています。
この先ひょっとすると、カラオケから美容の会社に変わるんじゃないの?という変化の種こそが投資のチャンス。男性の美容が盛り上がってきているのと併せて、最近の日傘ブームのようにひとたび火がつけば、株価が爆発する展開もあるでしょう。
ウーマン 変化といえば、名刺管理ソフトで伸びてきたSansanが印象に残っています。名刺をカメラで読み取る画像認識技術を活用して、オンラインで請求書を受領する業務用サービス「Bill One」に展開し、新しい成長商品を生み出しました。こんなふうに、既存の技術を横展開する事例はいろんな分野で参考にできると思います。
山本 お若いのに鋭いですね。四季報の記者としてスカウトしたいくらいです(笑)。
ウーマン おホメのお言葉をありがとうございます! 私は四季報写経のおかげで人生が変わりました。四季報と一緒に成長していきたいと思いますので、今後とも充実の誌面をよろしくお願いします!
●山本隆行(やまもと・たかゆき)
1959年生まれ。早稲田大学法学部卒業。『会社四季報』編集長などを歴任。現在は東洋経済新報社を退職しているが、今も四季報の編集に携わっている。著書に『伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい』(東洋経済新報社)。11月末に同書の改訂版が発売となる
●四季報写経(しきほうしゃきょう)ウーマン
株式会社四季報写経代表。山川隆義の著書『瞬考』(かんき出版)に触発され、2024年3月から四季報写経を開始。現在まで2000社の写経を達成し、その過程をXやnoteなどで発信しているほか、イベントの開催や研修の実施など、日々四季報写経の布教に奮闘している
取材・文/日野秀規 撮影/榊 智朗
記事提供元:週プレNEWS
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。