登場時と現行のカラーを両立!神奈川の雄、相模鉄道が送り出す「一風変わったラッピング電車たち」 その最新トレンドを見る【写真多数】
相模鉄道では、5月18日から11月頃まで、10000系10705編成(8両編成)に「懐かしの若草版」(同車登場時カラー※)、10708編成(10両編成)に「往年の赤帯版」(2014年頃まで他の形式で塗装されていた赤帯)のリバイバルラッピングを行っています。相鉄本線(横浜~海老名)・相鉄いずみ野線(二俣川~湘南台)で見ることができ、相鉄新横浜線には入線しません。
このラッピングは前面と側面の一部のみ復刻されていますが、それより後ろの車両は通常カラーのままで、不思議な印象を受けます。同じようなケースとして、昨年6~8月に行われていた8000系8713編成のリバイバルラッピングや、11~12月に運行した11000系「おかいもの電車」も、前面周りのみラッピングが行われました。
まるで、往年と現在のカラーリングをミックスしたようなリバイバルラッピング。とくに8000系と10000系は、前面のライトやLED表示器の更新時期にもさしかかっており(8000系は全車更新済)、登場時の顔立ちを見られる機会は少なくなっています。10000系に懐かしいカラーが復刻された今、同社の直近のラッピング電車を振り返ってみましょう。
※本稿で記載している「若草色」は通称で、正式な色名称は「ピーコックグリーン」です
JR東日本E231系がベースの10000系、先頭車両のリニューアルが進む
相鉄10000系は、JR東日本をE231系をベースに、2002(平成14)年に登場しました。前面こそ相鉄独自の顔つきで、座席のモケットもE231系とは異なるカラーリングですが、機器類や内装の大部分は同車と共通化されています。相模鉄道公式サイトの車両紹介によれば、「人と環境への優しさ」「ライフサイクルコストの低減」を主眼に置いて製造されたといいます。登場時は若草色とオレンジのラインをまとっており、2007~2011年にかけて相鉄ブルー・オレンジの新カラーに変更されました。
21世紀生まれの車両ですが、本稿掲載時点で22年が経過したことや、「デザインブランドアッププロジェクト」を理由に、リニューアル工事が順次行われています。リニューアルした編成には、前照灯(ヘッドライト)の前面上部への移設、VVVFインバータ制御装置の更新、種別・行き先表示をフルカラーLEDに交換する工事が行われました。一部編成はさらに「YOKOHAMA NAVYBLUE」の外観に塗装変更され、座席のモケットもライトグレーに交換されました。
今回、10000系2編成にラッピングを行った「SOTETSU SERIES 10000 REVIVAL COLOR PROJECT」は、相鉄社員の有志が企画したプロジェクト。まだリニューアル工事が行われていない2編成に相鉄線の歴代塗装をイメージしたラッピングを行う企画となっており、この一環で「SOTETSU SERIES 10000 REVIVAL COLOR PROJECT」入場券セットが販売されました。
この入場券セットは、「懐かしの若草版」「往年の赤帯版」の2種類用意され、3月23日に相模大塚駅で開催された、「令和6年能登半島地震」復興支援のためのチャリティー撮影会にて、各500セットが販売されました。どちらも完売したため、それぞれの売上が各カラーのラッピングを行う費用の一部にあてられました。その結果、登場時カラーと、相鉄歴代の赤帯をまとった10000系が実現。5月18日に運行を開始し、約半年間運行しています。
「懐かしの若草版」は10705編成(8両編成)、「往年の赤帯版」は10708編成(10両編成)に施されています。特に、「懐かしの若草版」の横浜方先頭車両には、10000系登場時のブランドロゴが復刻されているところもポイント。「往年の赤帯版」は、通常カラーでオレンジの帯が巻かれている側面下部にも赤帯があしらわれています。
ただし、冒頭で述べた通り、復刻ラッピングを行っている箇所は、各先頭車両の前面と、一部客室窓までの範囲です。それより後ろは通常カラーとなっています。その境目はグラデーションになっているので、自然な流れで色が変わっています。
筆者が沿線に見に行った日には、「懐かしの若草版」は、主に横浜~西谷間の各駅停車を中心に走行していましたが、1往復だけ海老名行き(特急)としても運行していました。「往年の赤帯版」は、朝に快速を中心に走行し、西谷駅から二俣川方面に回送される様子も。その後は夕方から運用を再開したみたいですが、それまではかしわ台駅の留置線に待機していました。
8000系8713編成や「おかいもの電車」も前面リバイバル
この10000系と同様のケースで、昨年の6~8月には、8000系8713編成に復刻ラッピングが行われていました。8000系は1990(平成2)年に登場した車両で、大容量のVVVFインバータ制御装置や、当時はあまり普及していなかったLED案内表示などが採用されました 。前面は、くの字に傾きを付けたスタイリッシュな形状ながら、前照灯を中央下部に配置した独特の顔立ちでした。
登場から30年が経過したことで、8000系もリニューアル工事の対象となり、前照灯の移設や前面のLED表示器の更新が行われました。一部編成は「YOKOHAMA NAVYBLUE」に塗装変更されています。昨年6月時点で、未更新の編成が8713編成のみとなり、登場時のスタイルが見納めとなることをきっかけに、2023年6月19日から8月下旬まで、同編成の前面窓下のラインを赤色に復刻していました。
この復刻ラッピングでは、横浜方の先頭部には相鉄グループマークなし、海老名・湘南台方の先頭部にはグループマークありの赤帯がラッピングされました。しかし、側面は青・オレンジのラインのままとなり、新旧カラーリングを両立させたような外観に。予定通り8月まで運行した後、8713編成にもリニューアル工事が行われました。
実は、一般運行開始の前日に事前応募制で開催された「相鉄線ミステリートレインRe」にて、8000系の前面復刻ラッピングがお披露目されたため、その際に大きな話題を呼んだことを筆者もよく覚えています。
また、同年11~12月には、11000系「おかいもの電車」 も運行しており、これも前面のみのラッピングとなっていました。「おかいもの電車」ラッピングは、横浜駅西口「相鉄ジョイナス」が2023年11月20日に50周年を迎えたことを記念して、当時運行していた旧5000系のカラーリングを11000系11002編成に再現したものです。横浜方先頭部では当時のヘッドマークを再現しつつ、海老名・湘南台方では、当時と同じデザインで「YOKOHAMAどっちも定期」(※)の文字を落とし込んだデザインになっていました。
※利用区間に相鉄新横浜線の西谷~新横浜間を含むIC通勤定期券で、追加料金不要で相鉄本線の横浜駅を利用できるサービス。通学定期券・紙の定期券は対象外で、横浜~西谷間の途中駅では降りられない(通常運賃を支払う)
なぜ先頭車両だけ復刻?10000系リバイバルにはもう一つのねらいも
冒頭に述べた通り、これらの復刻ラッピングは、先頭車両の前面と、側面の一部にのみ施行されています。このような方法でラッピングが行われている理由は何でしょうか。相鉄グループ広報担当に問い合わせたところ、「お客さまにお喜びいただける企画の1つとして、前面ラッピングを実施しています。これは、1編成全車両と前面のみのラッピングを比較し、コスト面や施行など様々な面で比較的実現しやすいことから実施しております 」と回答がありました。
正直なところ、一鉄道ファンとしては、編成全体でリバイバルカラーを見てみたかったとも思っていますが、先頭車両だけでも復刻の要点はしっかり押さえられています。その上で、沿線住民や鉄道ファンらの好評を得られて社内の負担も軽減できるのであれば、このようなラッピング形態も理にかなっているのではないでしょうか。
続いて、 10000系に2種類の復刻カラーを再現した「SOTETSU SERIES 10000 REVIVAL COLOR PROJECT」について。このプロジェクトは、相鉄のお客様センターへ届いた要望、過去のイベント時のアンケート、SNSでの口コミが多数見られたことをきっかけに、社員有志が立ち上げたとのこと。この一環で、相模大塚駅でのチャリティー撮影会でオリジナル入場券セットが販売されましたが、実は入場券セット自体は昨年から企画が進んでいました。
というのも、相鉄社内にはすでに「相模大塚駅でまたイベントを開催してほしい」といった意見が多数寄せられていたとのこと。これに応えるべく企画を進め、3月に相模大塚駅構内でイベントを開催。実際にこの入場券は大好評で当日のうちに完売し、購入者から、「ラッピングを楽しみにしている」という声も寄せられたそうです。
もうひとつのねらいとして、相鉄からは「お客さま参加型イベント」という回答もありました。つまり、オリジナル入場券セットを買うことにより、費用を一部負担する形でユーザーもリバイバルラッピングに参加できる、ということになります。編成全体はラッピングせず、入場券セットの売上の一部を費用に充てるということで、予算の懸念もあるかもしれませんが、公式としては「あくまでもお客さまに喜んでいただけるという点に焦点をあて、実施しました」とのこと。ファンに楽しんでもらう目的で「ユーザー参加型」となりました。
ちなみに、10000系が赤い帯を巻いているのは初めてではなく、2013年・2014年に運行していた「走るウルトラヒーロー号」でも経験があります。とはいえ、今回は「かつての相鉄のシンボルカラーである赤帯を10000系に施したらこうなる」という趣旨であるため、「ウルトラマン」のイメージカラーではなく、純粋に相鉄の赤帯時代を再現した形となっています。
今年で11代目の「そうにゃんトレイン」、ラッピングの変遷は
相鉄のラッピング電車といえばもう一つ、2014年から10年間運行し続けている「そうにゃんトレイン」も欠かせません。相模鉄道広報担当として2014年に入社した、相鉄グループマークっぽい見た目の新種のネコのキャラクター「そうにゃん」。「そうにゃん」入社と同年に運行開始した「そうにゃんトレイン」は、毎年異なるラッピングに貼り替えられ、2024年4月で11代目になりました。
11代目のラッピングは、11000系(11004編成)の前面下部・側面戸袋部に、直通線で沿線を旅する「そうにゃん」をイメージしたデザインとなっています。車内にも直通先への旅を楽しむ「そうにゃん」が散りばめられています。
11代にもわたってさまざまなラッピングを行っている「そうにゃんトレイン」の初代は、先頭車両の青いラインの一部を黄色にし、側面の大部分に「そうにゃん」をあしらったデザインでした。2代目以降は青いラインに戻りましたが、11000系の前面下部に大きくラッピングを施すラッピング方法はずっと続いています。この10年間での「そうにゃんトレイン」の変遷については、以下の回答をもらいました。
「2014年に運行開始した初代そうにゃんトレインから2017年から運行開始をした4代目そうにゃんトレインは、前面および側面部へのラッピングを施していました。2018年より運行開始をした5代目そうにゃんトレインからは、そうにゃんをもっと身近に感じていただきたいという思いから、側面部へのラッピングをやめ車内の装飾ラッピングを実施するようになりました」(相鉄広報)
ちなみに、6代目以降の側面も、戸袋部に丸いラッピングを行うにとどまっています。他のラッピング列車のように、もしかしたらコストとの兼ね合いもあるかもしれませんが、外観だけの装飾から、内装への装飾に力を入れるようになったことは、間違いなく10年間で大きく変わったところといえるでしょう。もちろん11代目の車内にも「そうにゃん」がいます。
「SOTETSU SEIRES 10000 REVIVAL COLOR PROJECT」によって当時の色が復活した、相鉄10000系「懐かしの若草版」「往年の赤帯版」。相鉄広報に話を聞いてみたところ、コスト、施工などの条件で実現させやすいことから、このラッピング方法が行われているようです。さらに今回は、入場券セットを購入することが、ユーザーが企画に加わることにもなる、参加型イベントにもなっていました。
10000系以外に、直近では昨年の8000系や11000系「おかいもの電車」もありましたが、もっと振り返ると初代「そうにゃんトレイン」なども、同じような方法で先頭車両にラッピングが施されていました。あくまでも筆者の見解ですが、11000系はともかく、8000系や10000系は前面の更新もかかっているため、「登場時の姿を最後にもう一度」という意味もあるかもしれません。
8両編成の「懐かしの若草版」、10両編成の「往年の赤帯版」ともに、2024年11月頃まで相鉄本線・相鉄いずみ野線にて運行しています。取材時点では「今後の運行予定につきまして、決定した事項はございません」(相鉄広報)とのことでしたが、いずれすべての編成が更新されると思われます。周りの人の迷惑にならないよう、安全・マナーに配慮しつつお楽しみください。
記事:若林健矢
記事提供元:鉄道チャンネル
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