WS連覇! ドジャース「王朝継続」に不可欠なふたつのピース
イチオシスト

大谷翔平(左)、山本由伸(中央)、佐々木朗希(右)の「日本人トリオ」が躍動した
「日本人トリオ」が躍動し、今世紀初のワールドシリーズ連覇を達成したドジャース。来季以降も「王朝」を継続するために推し進めなくてはならない「血の入れ替え」とは?
【日本人トリオが躍動。〝PS最適化〟の強さ】球団初のワールドシリーズ(WS)連覇を成し遂げたドジャース。延長18回の死闘で1試合2発&9出塁の離れ業を演じた大谷翔平、連夜の熱投で胴上げ投手になった山本由伸、チームの不安要素だったブルペンを支えた佐々木朗希......日本人トリオが三者三様の見せ場で世界一に貢献しただけに、まだ興奮冷めやらぬ人も多いはずだ。
「ブルージェイズも投打にいいチームで、本当に見どころの多いWSでした。そんな中、大谷、山本、佐々木の日本人3選手がしっかり仕事をしてチームに連覇をもたらした。
たとえるなら、サッカーの欧州チャンピオンズリーグで日本人がFWと中盤とGKでチームを支えて優勝したようなもの。日本中が夢中になるわけです。あれだけの選手たちが高校野球のような懸命なプレーを見せれば面白いに決まっています」
WSをこのように振り返ったのは、現役投手を指導するピッチングデザイナーで、MLBにも精通する本誌おなじみの野球評論家・お股ニキ氏だ。長年にわたってMLBを分析してきた識者に、改めてドジャース連覇の要因をご解説いただこう。
チームの象徴として奮闘し続けた大谷翔平は、レギュラーシーズン(RS)でキャリアハイの55本塁打。ポストシーズン(PS)では8本塁打、さらに歴代2位の9敬遠で話題になった。
「RSでは夏場に不調の時期もありましたが、PSに向けて状態を上げました。特筆すべきは申告敬遠を含めた四球の多さで得点源になったこと。相手チームが徹底して大谷に左投手をぶつけたことで大谷以降の右打者が打ちやすくなった。自分が打たずとも勝利に貢献できることこそ、スーパースターたるゆえんです」
さらに今季は投手としても復活を果たし、勝負どころの9月は先発3試合で防御率0.00。WSでの白星はならなかったが、大谷の状態を鑑みれば仕方がない部分もあるという。
「WS第3戦での『1試合9出塁』で疲労が蓄積したのは明らか。疲れがなければもっと無双できたはず。二刀流をやる以上、この先も懸念すべき課題ですが、そもそも今季はトミー・ジョン手術から復活したリハビリのシーズン。投手としてのスタミナが戻れば、サイ・ヤング賞投手に匹敵する投球ができることを示した一年だったと言えます」
そのサイ・ヤング賞の最終候補3人に残ったのが山本だ。今季はチームで唯一先発ローテーションを守り抜き、12勝8敗、201奪三振。被打率.183は堂々のリーグ1位。
さらに、PSでは5勝1敗。「PSでの2試合連続完投」「WS3勝」はどちらも24年ぶりの快挙だ。これほど安定した投球で打者を圧倒できた要因として、これまでにもお股ニキ氏が指摘してきたのがフォームの修正だ。
「7月頃から、ここ数年続けていた『すり足気味のフォーム』をやめて、しっかりと足を上げて並進運動から回転運動へとエネルギー伝達効率を最大化する、日本で無双していた『2022年型フォーム』に変わりました。
その結果、9月以降は球速155キロ以上を計測するなど、一番の課題だった出力低下の懸念を補えるようになった。さらに、食い込むツーシームと空振りを奪えるスラッターのキレも良くなり、右打者を苦にしなくなりました」
投球フォーム以外に、WSでは配球面でも変化があった。
「メジャー移籍後、山本は強力なスプリットを軸に投球を組み立ててきました。WSではブルージェイズがそのスプリットをケアしていると察知し、カーブとスラッター、自信を持つストレートを軸に組み立て直した。
この配球もオリックス時代に無双状態を誇った『黄金の配球パターン』ですが、単に昔に戻ったのではなく、相手のスプリット対策を逆手に取って別の武器で仕留める、という高度な駆け引きの勝利でした」
大谷と山本の異次元の活躍の陰に隠れがちだが、PSで抑えの切り札として奮闘したのが佐々木だ。PS9試合で10.2イニングを投げて、防御率0.84の好成績。3セーブはPSトップだ。
「2022~23年に私が『人類史上最高の投手』と評しましたが、その状態が戻ってきました。メジャー移籍に向けて、スイーパーを試行錯誤して投げていましたが、佐々木の最大の魅力は160キロ超のストレートと『計算できる高速ナックル』とも呼べるフォーク。
このシンプルな球種構成により、短いイニングで出力を上げられるようになったことは、佐々木の今後の投手人生において大きな財産となるはずです」
日本人トリオが尻上がりに調子を上げて大活躍したように、PSで仕事をする選手が多かったことこそ、ドジャース連覇の大きな要因だったとお股ニキ氏は語る。
「ドジャースは今季で13年連続PS進出。ひと昔前はPSでなかなか勝てない球団でしたが、この2年は何が違ったのか。以前は短期決戦で求められる繊細な野球に対応できない印象でしたが、この2年は臨機応変かつ縦横無尽に大技小技を繰り広げることができている。特に今季のチームは、攻守両面でPSに最適化されていたと言えます」
日本人トリオが率先して体現してみせたこの〝PS最適化〟は、試合を重ねるごとにほかのチームメイトにも伝播。象徴的だったのがWS第7戦だ。
9回表に起死回生の同点弾を放ち、その裏のセカンド守備でもチームを救った36歳のミゲル・ロハス、センターの守備固めで出場して好守を見せたアンディ・パヘスら、ベテランや脇役の活躍も目覚ましかった。
「ロハスやパヘスだけでなく、足と外野守備で存在感を放ったジャスティン・ディーン、勝負強すぎる打撃を見せたテオスカー・ヘルナンデスやキケ・ヘルナンデスらの活躍が光りました。
サッカーのレアル・マドリードのような常勝軍団もそうですが、大ベテランや控え選手が手を抜かず、いざ出番になればレギュラー以上の最高の仕事をしてみせるのが本当に強いチームです」
そういった選手を適材適所で起用したデーブ・ロバーツ監督の采配も見事だった。
「ロバーツ監督は投手起用で少しぎこちない面があるものの、野手の配置や打順変更はWSで見事にハマりました。自身も現役時代のPSでシリーズの流れを変える盗塁を決め、今でもファンの間で〝ザ・スティール〟と語り継がれるほど。その勝負師としての強さを示したカタチです」
【3連覇へ向けたふたつの課題】今世紀初のWS連覇という偉業を達成したドジャース。次なる野望は1998~2000年のヤンキース以来となるWS3連覇だが、今のチームのまま来季も安泰、とは当然いかない。
今季、山本に次ぐ11勝を挙げたレジェンド、クレイトン・カーショウは引退。WSで劇的プレーが光ったロハスも来季限りでの現役引退を表明しており、代わりとなる選手が欲しい状況だ。
また、ユーティリティ選手のキケ・ヘルナンデスがFA、強打の三塁手マックス・マンシーも今季で契約が切れるなど、主軸が一気に抜ける可能性もある。
「内野ならどこでも守れるロハスの代わりはなかなか難しい。また、大物選手を獲得すれば正解というわけでもないのが悩ましいところ。
ヤンキースも3連覇した後、アレックス・ロドリゲスやゲイリー・シェフィールドら超大物を次々獲得しましたが、むしろ弱くなった。大物選手にはチームへの献身性に欠けるタイプもいて、勝負どころで結果が出ない場合もあります」
選手の流出以外でもドジャースには「野手の高齢化」という課題がある。今季ドジャースのWSロースターの平均年齢30.0歳は、MLB全球団で最高齢だった。
「33歳のムーキー・ベッツがいつまで本職ではないショートを守るのか、という課題もあります。並外れた身体能力でなんとかしているものの、本職のショート、そして高齢化の進む外野手は補強ポイントです」
今季FA戦線の目玉は、WSで対戦したブルージェイズからFAのボー・ビシェット。来季28歳で、過去に2度リーグ最多安打を記録したメジャー屈指のショートだ。
「父親はロッキーズなどで活躍した元本塁打王のダンテ・ビシェット。ボーも柔らかさのある選手で獲得できれば大きい。ただ、ドジャースとしては24歳の若手内野手、アレックス・フリーランドをショートとして育てたい意向もあるようです。
ほかのFA選手ではレッドソックスの強打の三塁手アレックス・ブレグマン、打点王経験のあるカブスの外野手カイル・タッカー、ドジャースに在籍していた2019年にリーグMVPを受賞したヤンキースの外野手コディ・ベリンジャーが注目の的。ドジャースは外野と一塁、三塁を守れる選手が欲しいはずです」
そこでお股ニキ氏がオススメするのは、ポスティングでのメジャー移籍希望を表明した岡本和真(巨人)だ。
「同じポスティング移籍を狙う村上宗隆(ヤクルト)と比較しても岡本は守備力が高く、打撃では柔らかさもある。前回のWBCでもアメリカとの決勝戦で本塁打を放つなど、勝負強さもある。一塁、三塁、外野を守れる点もドジャースの補強ポイントと合致します」
一方の投手陣はどうか。先発は山本を筆頭に、お股ニキ氏が「メジャー屈指の充実度」と語るブレイク・スネル、タイラー・グラスノー、大谷が来季もそろい踏み。さらに、PSでリリーフに回ったエメット・シーハンと佐々木も先発として期待されている。
「佐々木はスタミナ面や球種の少なさなど、先発としてはまだ不安要素もありますが、あれだけの才能をリリーフで使い潰すのはもったいない。今回のPS限定のリリーフ起用と考えたいです」
となれば、今季同様にリリーフ陣が課題となる。
「昨季は昨季でリリーフを積極補強したものの、その投手たちが軒並み活躍できなかった。100億円超で獲得したタナー・スコットはシーズンで何度も救援に失敗し、PSでは登板ゼロに。登板過多になりやすいリリーフ投手は、実績だけで獲得しても、すでに経年劣化している可能性があるのが難しいところです」
FA市場に上がる救援投手では元阪神で今季セーブ王のロベルト・スアレス(パドレス)が注目株だ。ただ、来季35歳という年齢も気になるところ。そこでお股ニキ氏が提唱するのは、自前でリリーフ投手を育てていくプランだ。
「アストロズや阪神、DeNAのように、他球団で戦力外になった投手や、いいものを持っているのに花開いてない投手を魔改造していく施策をもっと増やしていきたい。ドジャースも以前はそれができていた球団です。
球種の少ない投手はPSでは結果が出ない、というのも統計で出ているだけに、球種の豊富さを考慮して投手の獲得と育成に臨む必要があります」
ここ数年の積極補強で、ドジャースのことを「悪の帝国」としてヒール的に扱う人たちもいる。だが、お股ニキ氏はその見方に対して異を唱える。
「そもそも、今のMLBは戦力が拮抗しています。その中で毎年勝ち上がるのがいかに難しいか。今のドジャースは1991年から14年連続で地区優勝したブレーブス並みの長期王朝をつくり上げており、来季もPS進出はほぼ間違いない。
そこから先も勝ち上がるチームにどのように仕上げていくのか、今から楽しみです」
東京ドームでの開幕戦に始まり、文字どおりメジャー30球団で最も長い一年を過ごした2025年のドジャース。来年も同様に、長いシーズンとなることを期待したい。
*情報は現地時間11月5日時点
文/オグマナオト 写真/時事通信社
記事提供元:週プレNEWS
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