苦節10年で初V…家族、兄と慕う松山英樹にも感謝 佐藤大平が大事にしてきた“下積み時代”の風景「自分も負けられない」
イチオシスト
<フォーティネット プレーヤーズ カップ 最終日◇2日◇成田ヒルズカントリークラブ(千葉県)◇7137ヤード・パー71>
ツアーデビューを果たした2016年から、10年目で手にしたプロ初優勝。32歳の佐藤大平は、やけに冷静だった歓喜の瞬間を自分でも不思議そうに振り返る。「想像と違ったのは涙が出なかったこと。『絶対に泣くよな』と思っていたので。泣いてもいいな、と思ったけど」。隣で思わず男泣きしそうだったキャディを見て、「なんでお前が泣いてるの!?」と笑いながら、つっこむ“余裕”も。笑顔の輪が広がる、そんな優勝劇だった。
2位に3打差の首位で終えた前夜は、確かにプレッシャーを感じていた。「(午後)11時に寝て、(午前)2時に起きて、そこから目はつぶってるけど、脳はずっと何かを考えてる状態。緊張してるんだなって思いました」。だが、当日の朝を迎え、これまでの優勝争いとは異なる感情も。「勝てる」。そんな自信が芽生えていた。
それを後押ししたのが、残り135ヤードから46度のウェッジで1.5メートルにつけた1番と、右手前バンカーからピンまで22ヤードの3打目を、やはり1.5メートルに寄せて奪った2番での連続バーディだった。「あれで落ち着けた。今までは、バーディが早い段階で来ず、リズムに乗れなかった。早くバーディが来て良かった」。その後の3番で1つスコアを失いながら、4番で取り返したこのバーディも「大きかった」と振り返る。
東北福祉大から15年にプロに転向。18年には下部ツアーで2勝を挙げ賞金王にも輝いた。翌年、賞金ランク54位で終え初シードを手にすると、そこからはレギュラツアーを主戦場にし続けている。ただ、スタートから順風満帆というわけではない。これがプロ転向後、レギュラーツアーは146試合目だった。ここまでを振り返ってもらうと、しっかりと目を閉じ、しばし無言に。「たしかに10年間ですよね…」。そうポツリとこぼした後、せきを切ったように、これまでのことが語られた。
「周りが優勝していく姿をみて、『勝てるのかな?』と思ったりもしました。でも自分を信じてやり続けよう、と。妥協だけはしたくない、準備だけはしっかりしていこう。そう思いながらこれまでの10年間を過ごしてきました」
こうした思いに至ったのは、17年などにプレーした中国ツアーでの経験が大きい。日本で職場がなかった時は、大学の同級生で、現在は松山英樹のキャディを務める早藤将太氏からの誘いを受け、異国でもプレーした。いわば下積み時代。そこで見た、慣れない文化のなかで、上を目指す欧米出身の選手から刺激を受けた。
「例えば中華料理は僕らは普段から慣れている食生活だけど、欧米の選手はそうではない。その大変な環境でプレーしている姿を見て、僕たちは恵まれていると思った。“がむしゃら”にプレーしないといけないと思った。あの経験がなかったら、今の僕はない。中国まで来て、(欧米の選手が)プレーしている姿を見ると自分も負けられないな、と思いました」
さらに、ここまでプロ生活を続けてきたなかで、欠かせない人物がいる。それが松山英樹。「自分の中で大きな存在。兄のよう」と慕う2学年上の先輩の背中をずっと追いかけてきた。佐藤には、忘れられない助言がある。コロナ禍に見舞われていた20年の国内開幕戦「フジサンケイクラシック」の17番で3パットのボギーを叩き、1打差で敗れた試合後にもらった言葉だ。
「1打足りずにプレーオフに行けなかったんですけど、松山さんから『あの3パットのことを思って、これから練習するなよ」と言われました。僕はもともと上りのスライスが苦手で、この時もそうだった。あのパットのことは引きずりもしたんですけど、後からその言葉の意味が理解できました」
深い悩みに陥りそうな後輩を、事前に救い出した金言。今では上りのスライスラインも「コーチもついたし、大丈夫です!」と笑い飛ばすことができる。
観戦に来ていた最愛の妻、そして3人の子供たちに優勝する姿を見せることもできた。その話題を振られると、急に照れくさそうに「内心は、あまり来てほしくないな…と思っていた」と、冗談も飛ばす。「優勝しそうになったら見に来て、と言いました」と言うが、妻が『勝つから見に来て欲しい』と言われたことを明かしたという話を聞くと、「そう言ったのかな、言ったんですかね?」と、しどろもどろ。それでも、「うれしかった。常日頃から家にいない存在で、子供たちにも寂しい思いをさせている」と照れながらも感謝を伝えた。
目標もひとつ達成した。「去年、一昨年とJTには行けたけど、勝って行きたいとずっと話していた。選手パネルに『優勝』って入るか、入らないかで全然違う。勝って行きたかった」。シーズン優勝者と賞金ランク上位者のみが出場できる最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」(12月4~7日、東京よみうりCC)に『今季優勝者』の枠で出ることを目指してきた。さまざまな経験、そして支えてくれた人たちへの感謝を胸に、今年は堂々と“日本タイトル”を取りにいくことができそうだ。(文・間宮輝憲)
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