撮り鉄マナー向上の救世主になるのか? 相鉄×Adobeが鉄道写真を生成AIの力で補正する方法を伝授! 無料アプリで写真加工があなたにも簡単に【イベントレポート】
鉄道写真の撮影時に、一部の撮影者が、写真の邪魔になる樹木を切る、看板などを勝手に移動してしまうなどといった迷惑行為を行う事が、ニュースになることがあります。そんな一部の撮影者の行き過ぎた行為を減らすために、生成AIの力が役立つかもしれません。
相鉄×Adobeの異業種タッグでの新たな試み
神奈川県を基盤とする大手私鉄である相模鉄道(相鉄)と米国のソフトウェアメーカーであるアドビ(Adobe)とが共同で、11月24日に、事前抽選で当選した約30名の鉄道ファンや相鉄ファンを招いて「楽しく撮り鉄!生成AIで鉄道写真をもっと簡単に!」というイベントを開催しました。
このイベントで紹介するのは、写真を撮影する際に不要と感じる対象物を、最新の生成AIの技術で削除するという体験になります。つまり、車両の写真に邪魔なものが映り込んでしまったり、SNSで掲載したい景色に他の人が映り込んでしまったとしても、「Adobe Express (アドビ エクスプレス)」というアプリを、スマートフォン(iPhone)やPC上で使用することにより、消すことが出来るというものです。
このアプリを用いることで、鉄道の写真などを撮影する際に、周囲へ迷惑をかけずに安全に楽しく撮影する方法を啓発・提案することを目的としています。
今回は、こちらのイベントをレポートし、注目のAI技術をお伝えしていきます。
参加者達は、まずは相鉄線の「星川駅」に集合し、簡単なイベント説明と、写真補正に用いるコンテンツ制作アプリ「Adobe Express (アドビ エクスプレス)」を使用するのに必要な Adobe IDの取得などを行いました。Adobe ID とは、インターネット経由で、製品のダウンロードや登録を行う際に必要になるアドビのオンライン用メンバーシップID で、電子メールアドレスがあれば無料で登録が出来るというものです。「Adobe Express (アドビ エクスプレス)」を体験したい方は、ぜひ取得してみて下さい。
特別運行の臨時回送列車でかしわ台車両センターへ向かいます
星川駅に集合で始まった今回のイベント、この後は、このイベントのために特別運行される「臨時回送列車」に乗車して、かしわ台駅に隣接している「かしわ台車両センター」に向かいます。
星川駅のホームで臨時回送列車を待つ参加者たちは、相鉄の係員の注意に従って、ホーム上の安全な位置から入ってくる列車の撮影を行います。
星川駅に入線したイベント用の臨時回送列車は、相模鉄道の最新車両、21000系です。
2021年9月に登場し、東急目黒線直通車両として運用されている、ヨコハマネイビーブルー色の車両です。
いよいよ出発です。星川駅を出発して海老名駅方面に、列車は進みます。
相鉄線の方が、いくつかの場所で沿線の見どころなどを説明してくれます。参加者たちは、貸し切りとなった車内で、車窓の撮影など思い思いの時間を楽しみます。
途中では、参加者による車内アナウンス体験も行われました。走行中の車両内全体に自分のアナウンスが流れるのは、思い出に残りますね。
列車は、目指すかしわ台駅に到着。ここで下車し、駅に隣接する相鉄線の車両センターの敷地内に入ります。特別なイベント開催時を除き、普段はごく一部の関係者しか立ち入ることのできない場所です。
荷物を置いた後は、撮影の説明を受け、車両センター内での写真撮影時間になります。
ここでは、それぞれ、普段は入れない車両基地内の景色や、珍しい車両などを前に写真撮影を行っていました。
車両センター内で各々好きなが写真撮影を行った後は、全員での集合写真を撮影。
ここからは、車両センター内の事務所会議室にて、「楽しく撮り鉄!生成AIで鉄道写真をもっと簡単に!」という、参加者が体験しながらのワークショップの時間です。
ワークショップ「楽しく撮り鉄!生成AIで鉄道写真をもっと簡単に!」
アドビの岩本崇さんによる「Adobe Express」の生成AI機能の説明によりイベントが進み、ゲストとして「日本のもじ鉄 鉄道サインと書体の図鑑」(三才ブックス)の著者でグラフィックデザイナーの石川祐基さんが登壇。
参加者達も、実際に「Adobe Express」アプリを起動させて、まずはホーム上に人物が映り込んだ写真で、邪魔なものとなる人物を消すという体験・「オブジェクトの削除」という体験にチャレンジします。
例として下記の写真をご覧ください。相鉄線の新横浜駅のホームの写真ですが、看板の右横のホーム上には駅員の姿が映っています。
このホーム上の駅員を消したいと思った場合には、PCではマウス、iPhoneでは指などを使って、消したいと思うもの(オブジェクト)をざっと選択してあげます。
範囲の指定を終えて「オブジェクト削除」のボタンを押すと、その範囲が光り始め、生成AIが消すべき対象物を認識し、その代わりにどのような画像に置き換えるのが適切なのかを考える作業が始まります。
元の画像やネットワークの環境により違いが発生しますが、今回の場合は約30秒で作業が終わりました。
駅員を消した背景の候補をAIが予想して、3種類の画像候補をアプリが提示しますので、一番良いと思うものを選択すると作業は終了になります。出来上がった画像が下記のものです。
ホームドアの前に居た駅員が消え、駅員の裏側に隠れていた、ホームドアや点字ブロックの部分を、AIが周囲のものから予想をして作り出しているのがわかります。
こちらの写真は、ワークショップのスクリーンものを映したので荒く見えますが、実際のPC画面上ではきれいに出来上がっています。
参加者達も、PCやiPhoneでこのアプリを使って、邪魔なものを消す体験に挑戦します。
PCでもiPhoneアプリでも基本的な作業は同じです。写真から消したいものを選び、その代わりの背景をアプリの生成AIが考えるという行程になります。
こちらの写真でも、しっかりホームを歩いていたはずの駅員が消えました。その背景にあったはずの柱も、違和感なく生成されています。
実際に撮影した写真で試してみました
今回は、筆者も実際にアプリを試してみました。
先ほど使用した下記の写真で、ホームを歩いている人を消してみます。
ホーム上には2人の方の背中が見えます。
やや消さなければならない範囲が多く、ほとんど点字ブロックが見えていないため不安でしたが、アプリが考えた結果は以下のようになりました。
人物が消えて、隠れて見えていなかったはずの床の点字ブロックやホームドア部分が生成されました。次は更に、電車前に立っている車掌さんとそうにゃんにも消えてもらおうかと思います。(邪魔なものではありませんが、テストのためですので申し訳ありません)
車体の色と制服の色が同じような紺色なので、消したい選択範囲を選ぶのもの難しく、上手く消すことが出来るのか非常に不安ですが待ってみます。
結果としては、車掌さんとそうにゃんがきれいに消え、背景の車両と窓の部分にもそれほど違和感を感じさせないものが生成されています。
誰でも簡単に、短時間で写真の修正を行える「Adobe Express」でのオブジェクト削除の技術は、写真を更に身近なものにしてくれるものだと言えるでしょう。
今回のワークショップでは、ゲストの石川祐基さんとの写真加工を行ったり、参加者が実際に撮影した写真を加工したものをいくつか紹介したり、相鉄からは安全に鉄道写真を撮るためのお話などがありました。
最後には、参加者がじゃんけん大会に参加し、勝った人には「相鉄線運転シミュレーターでの運転体験」への参加がプレゼントされました。
相鉄線の運転シミュレーター体験
子供から大人までがあこがれる、鉄道車両の運転シミュレーション体験も行われました。
このシミュレーターでは、運転をしたい相鉄線の区間を選ぶことが出来るようです。実際の運転手さんにサポートをしてもらっての体験で、難しい駅のホームへの停車なども上手にできていました。
鉄道会社×他業種とのコラボがもたらす効果は
今回のイベントのように、鉄道会社が画像ソフトウェア企業と一緒に行う「異業種コラボでのイベント」は、まだ珍しい形のものといえますが、鉄道ファンの中でも「撮り鉄」といわれる人達にとっては、「鉄道」も「写真撮影」も「画像加工」も、普段から同じように関心を持っている業界だったのではないでしょうか。
今回ご紹介したようなAIを用いた画像修正の技術は、鉄道ファンだけではなく、色々な写真を撮るのが好きな人たちや、SNSにきれいな写真をUPしたい人たちにとっても、想像以上に気軽に使えるものだったと思います。「写真の中のあれを消したかった!」と思っていた方は、是非、今回ご紹介した「Adobe Express」を試してみてください。
相鉄線は神奈川と東京・埼玉を結ぶ主要路線に
相鉄線は、2029年11月にJR線と、2023年3月に東急線との相互乗り入れが開始され、神奈川と東京・埼玉方面を結ぶ主要な経路の一つとして加わりました。新横浜駅がつながったことで、新幹線を利用して直接相鉄線へ来る人も期待が出来ます。
沿線の利用者を増やしていくためには、相鉄線の周辺に住む人たちを東京都や埼玉県の主な観光地に送客することはもちろんですが、今後は神奈川県以外に住む人々ををいかに相鉄線沿線に運ぶかという施策が期待されるでしょう。
天王町駅付近の東海道「保土ヶ谷宿」の散策、鶴ヶ峰駅や三ツ境駅からバスでアクセスできる「ズーラシア」や「フォレストアドベンチャー・よこはま」、大和駅周辺の「ふれあいの森」や「泉の森」をはじめとした大規模な公園、ゆめが丘駅にできた「ゆめが丘ソラトス」、そして瀬谷駅北側の旧上瀬谷通信施設跡に予定されている「大規模テーマパーク」など、様々な周辺の観光スポットを関東広域の人に向けて知らせていく活動や、スタンプラリーや一定期間大きな集客ができるイベントの開催、沿線のお店利用を促進できるようなお得なきっぷの開発など、少し遠くても訪れてみたいと思わせるように、沿線の集客資源の紹介を続けて行くのが良いのかもしれません。
個人的には、瀬谷駅北側に予定されている東京ディズニーランドと同規模の次世代テーマパーク「KAMISEYA PARK(仮)」の動向には注目をしています。
今後の、相鉄線の沿線の情報発信にも期待をしていきましょう。
文・写真:鎌田啓吾
(鉄道チャンネル)
記事提供元:鉄道チャンネル
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